人間交差点 II

一昨日のお客様です。
40代後半くらいの落ち着いた感じの女性の方でした。



足が悪いみたいでご乗車にも時間がかかりました。



ご乗車ありがとうございます、 と伝え会社名と自分の名前を名乗り行き先、ルートを確認。
スタートです。


すみません、ちょっと足を骨折してしまいまして、手間取りまして、とお客様。


私が気遣って優しい言葉をかけると、続いてお客様が、歩道橋から落ちてしまったんです。3段くらいでしたけど、最初はそこまでひどいとは思わなかったんですよ、でも痛みが取れなくて翌日お医者様行ったら骨折してるって、


その話を聞いて私も山で骨折したときのことを思い出してしまいました。


あれは私がまだ30の頃です。
息子が1歳の頃でまだ娘は生まれていませんでした。
高校時代の山岳部の後輩と3月に八ヶ岳に行った時のことです。
山をひとつ登って峠の山小屋に先発の後輩たちと合流する予定でした。


私たちの登山口への到着が遅れお昼近くになってしまいました。
登り始めると途中から雪が深くとうとう首までのラッセルになってしまいました。
首までのラッセルとは雪を一歩踏むとズボズボと膝を超え、腰を超え首まで沈んでしまうということです。
私はこれは日が沈む前までに山小屋に到着するのは難しいと感じ、焦りました。
ブルドーザーのように手でも雪をかき分け進みます。
一緒の後輩はちょっと太っていたので私から遅れがちになりました。
焦っていた私は先にどんどん進みます。


なんとか午後5時にはとりあえず最初のピークに達しました。
ここまでくればあと一時間も下山すれば山小屋です。
ここで後輩を待ちます。


しかし何度名前を叫んでも応答がありません。
結局そこで沈みゆく太陽を虚しく眺めていました。


後輩は来ないので真っ暗になった山頂から山小屋に向けて下山します。


しかし途中雪面の急斜面で滑落してしまったようです。
気絶していたようで目が覚めたら午後8時を過ぎていました。





再び歩き出そうとすると尻がものすごく痛みます。
数分歩いただけでこれはこれ以上進むのは不可能と判断し山の急斜面で50センチくらい平らな場所を見つけそこに寝袋を引いてその夜はそこで寝ることにしました。
明日になったら痛みが引いていることを願って、
そこはまだ樹林帯に入っていない雪原の急斜面でした。
寝返りをうったら死ぬ環境です。気温もマイナス10度を下回っています。


翌日起きて再び歩き出しましたが、痛みはひどいままです。
しかしそこにいても仕方ないのでメチャメチャ痛かったですが、こらえてなんとか自力で下山しました。
合流もあきらめ、下山です。


下山口には昨日一緒だった後輩が待っていました。
お前、山頂でずっと待っていたんだよって、でも後輩は私にはあの雪で登頂は無理と判断し途中で下山しましたという。
何より無事であることが一番です。


そしてそのうち合流するはずだった後輩たちとも下山口で合流しました。


そして皆でお昼を食べて地元の医者に診てもらってから帰るか、となり見てもらったところ何と尾てい骨が割れていました。


そんな話を車の中でしておりました。


するとお客様下車の時、
私の主人も登山するんですよ、私もたまについて行きますとのこと。
運転手さんのような方に出会えたのも何かのご縁かもしれません。
あとで骨折してたってわかるもんなんですねって、


お気をつけてお過ごしくださいと、私。


そんな時間でした。